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小沢剛:透明ランナーは走り続ける
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2009年 8月 27日

≪ベジタブル・ウェポン・スペシャル-牡蠣の水炊き鍋、とろとろ湯豆腐、美酒(びしょ)鍋/ 広島≫2005 年, Courtesy of Ota Fine Arts, Tokyo (C)copyright Tsuyoshi OZAWA

1990 年代に入り、日本のアートシーンに新しい潮流が生まれました。日常に眼差しを向け、人々と関係性を築きながら制作活動を行っていくアーティストたちの登場です。小沢剛(1965 年生まれ、埼玉在住)はその潮流を牽引してきたアーティストの一人です。美術のために確立された安定した場所から時には離れ、移動を続け制作を行ってきた小沢剛の活動を、本個展では彼の「継続的プロジェクト」に焦点を当て、新作を交えて紹介します。

小沢が創作活動を行ってきた過去20 年は、冷戦が終焉を迎え、人・もの・情報が行き交うグローバリズムの波が訪れ、日本ではバブル経済が崩壊するなど、社会的、経済的価値観が転覆し大きく変化していきました。そうした中、自らの身の回りの事象に関心を向けることに立ち戻り、ユーモア溢れる解釈や手法によって、現代の抱える矛盾や問題点をやわらかに浮かび上がらせ、それを作品に反映させていきました。そうした日常性に立脚した視点から問いかける小沢は、作品制作のプロセスを重視し、人々が観客として鑑賞するという受動的なポジションから、過程を共有する当事者として私たち観る者を呼び込んでゆきます。

本展は旅する先で即興の記録写真を撮影していく『地蔵建立』、牛乳箱をギャラリーに見立てた『なすび画廊』、絶景を有する観光地で放置されるペットボトルをリサイクルし、絨毯を作る『天空からの絨毯プロジェクト』、ローカルな食材で銃を象り、それを料理し土地の人々と食す『ベジタブル・ウェポン』シリーズなど、初期のプロジェクトから新作まで、小沢のシリーズ作品に一貫している「継続性」に焦点を当て、創作を通じて地域性、また時代性を反映しながら作られる作品を振り返ります。また本展のための新作の一つとして、使用された後、形を変え再び人の手で使われる再生紙を用いる作品を発表する予定です。

本展覧会は、日本の現代美術において重要な、作品が媒介となり関係性を広げていく美術の潮流をしっかりと検証していくことも目的とします。

■「透明ランナー」・・・草野球でメンバーが足りない際に、目に見えないが、そこにいて、走る、ということが仮定された存在。小沢剛が複数のプロジェクトを継続的に展開し、着実に積み重ねられてきた制作プロセス、問題意識を、走り続ける「透明ランナー」になぞらえ、本展の副題としました。

小沢 剛(おざわ・つよし)
1965 年 東京生まれ
1989 年 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業
1991 年 東京藝術大学大学院美術研究科壁画専攻修了
1996-97 年 アジアン・カルチュラル・カウンシルの招聘によりニューヨークに滞在

主な展覧会
1993 年 「なすび画廊」設立
1999 年 「第1 回福岡アジア美術トリエンナーレ1999」福岡アジア美術館
2002-03 年 「アンダー・コンストラクション- アジア美術の新世代-」、国際交流基金フォーラム/東京オペラシティアートギャラリー
2003 年 「第50 回ヴェネチア・ビエンナーレ」アルセナーレ(ヴェネチア)
2004 年 個展「小沢剛:同時に答えろYES とNO !」森美術館( 東京)
2005 年 個展「コロポックルは君に語りかける」イヴォン・ランベール・ギャラリー( パリ)
2006 年 「第5 回アジア・パシフィック・トリエンナーレ」クイーンズランド現代美術ギャラリー(ブリスベン)
2008 年 「金沢アートプラットホーム 2008」金沢21 世紀美術館

全文提供: 広島市現代美術館

最終更新 2009年 8月 01日
 

編集部ノート    執筆:桝田倫広


展覧会のステートメントやキャプションなどにおいて、小沢剛の作品をむやみに「平和」という言葉に結び付けようとするのは、季節柄の問題か、この美術館が抱える土地性の問題か、はたまた去年発生した性病禍のせいか、私にはよく分からない。いやみを言いたいわけではない。もちろん「平和」というメッセージ性がないとも思わない。言いたいことはひとつで、「平和」という言葉に片づけられないほど彼の作品は、人と人とのコミュニケーションの深部に肉薄しているように感じるからだ。 それはさておき、≪なすび画廊≫≪ベジタブル・ウエポン≫などの旧作や広島に因んで作られた新作インスタレーションまで、素材・手法にこだわらない小沢の懐の広い想像力と実行力には恐れ入る。中堅作家の円熟した作品群を安心してみることができる展覧会であり、小沢剛という作家の半生を振り返るには、蓋し的確な時期を捉えた個展だと思う。


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