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自由について:春木麻衣子・狩野哲郎・三嶋安住
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2011年 10月 11日

春木麻衣子《neither portrait nor landscapeⅡ 1A》2011 type C print | Copyright© Maiko Haruki Courtesy of TARO NASU gallery | 画像提供:TAIRA MASAKO PRESS OFFICE

「自由について」という、ナイーヴなタイトルの展覧会をします。ここ数年、とくに3.11の震災の後、とても関心があるテーマです。
自由とは何でしょう?
これだけ多様化した、野放図な、「何でもあり」の足枷なき世の中になると、みんながふわふわと重石を失った気球のように浮遊して、自由の意味がよくわからなくなった。

では、人間は抑圧から解放されて初めて自由なのか?
たとえば1960年代、若者が政治や社会の抑圧に抵抗した末、無軌道な自由が横行し、ヒッピーたちはフリーセックスに、ドラッグに、神秘主義に耽溺し、当たり前の幸福さえも退屈に成り下がった。反骨と倦怠の時代の放埒の自由は、魅惑的なカウンターカルチャーと共に、現代まで尾を引く拠りどころのない頽廃の余韻を残した。

自由は不自由のはじまりだ。
前はできていたことができなくなり、行かれたところに行けなくなり、買えた物が買えなくなる。(震災と原発事故の後、私たちはこれを経験している) もしこれを不自由というのなら、最初から持たざる者、動かざる者がもっとも自由なのか。(断捨利ブームはその短絡的な解釈の例だ)

軽く縛られているくらいが自由、という人もいるが、そんな自由はいやだ。がんじがらめの閉塞した状況から逃げだすことも、1つの自由なのか? いや、自分自身を何らかの呪縛から解放しようとするとき、「逃げる」という自覚が意識上になければ、それは自由なのだろう。「自由とは手放すことを恐れない勇気を持つこと。それは心の中だけにある」と言った友人もいた。

今ほど「自由」を意識した時代は、久しくこの国ではなかった。その現代に生き、立脚点を異にする、4人の作家に焦点を当てる。自由な視点を獲得するため、自らを不自由な条件下に追い込むもの。閉塞した人間社会とは別の水脈に、新しい水場を作ろうとするもの。自意識のシェルターから世界を眺め、日々たゆまず絵を描くもの。歴史のタイトロープを、空っぽの虚心で渡りきろうとするもの。かれらの試みは秀作を産み、いまもその途上にいる。

いつかは消えるのだから、この世に生きているかぎり、自由な空気を吸い、踊って、歌っていたいという、野の鳥のシンプルな望み。そのささやかな「自由意思」を持って生きるために、人は周囲の環境、自身の態度、技術を磨き、ととのえる。 私たちはときにそれを芸術家の所作に倣うこともあるのだ。

住吉智恵 / TRAUMARIS アートプロデューサー・ライター

作家プロフィール

春木 麻衣子 Haruki Maiko

過剰露光による深い暗がりやあふれる光のなかで、目を凝らさないと見えないほど微かに息づく、街路、美術館、聖堂、通行人などの影や気配を撮り続ける。既視感や先入観を取り外した、独自の距離感でとらえた都市と人のポートレートは、「過不足なく見ること/深く知り合うこと」の不自由さや不安定さから跳躍し、潔く、繊細で、強かな後味を残す。写真という不自由な枠組みのなかで、あえて絵画的ともいえる表現方法を選択し、自分自身が見たい世界を自由につくりだすことを追求している。

1974年茨城県生まれ。玉川大学文学部芸術学科在学中の1995-1996年、Goldsmiths College, University of London 交換留学。現在、世界各地で制作.活動。主な個展:2010年「possibility in portraiture」TARO NASU、2007年「伍」太宰府天満宮、2006年「●○」NADiff、など。主なグループ展:2009年「neoneo展 Part2 [女子]」高橋コレクション日比谷、2008年「Asian Dub Photography」FONDAZIONE Cassa di Risparmio di Modena、2007年「六本木クロッシング2007:未来への脈動」森美術館(特別賞受賞。審査員:伊東豊雄)。

狩野哲郎 Kano Tetsuro

鳥や小動物をとりこんだ空間、あるいはさまざまな植物の種子を展示空間に蒔き、成長を見守るインスタレーション、通過した路傍の雰囲気の収集を試みる写真シリーズなど、滞在型制作で近年注目される。東京都現代美術館(前庭)での大型パヴィリオンに鳥を放つ作品とあわせ、本展では、半屋外の空間に、近隣に生態系をもつ鳥のための回廊を制作する。最近、狩猟免許(網、罠)取得。

1980年仙台生まれ。色々なところ育ち、東京在住。2007年東京造形大学大学院造形研究科修了。滞在制作/レジデンス: 2011年 かれいざわ・アーティスト・イン・レジデンス 2010年 秋吉台国際芸術村 アーティスト・イン・レジデンス 2010年 国際芸術センター青森、アジア・アーツ・リンク、アジアン・アーティスト・エクスチェンジ・レジデンシー・プログラム、安養市、韓国、ヨコハマアパートメント、横浜市ほか多数。主な個展:2011年 東京都現代美術館(前庭)、「あたらしい回廊/Anonymous corridors」waitingroom、2010年「魔術的な小道/Magical paths」project room sasao、秋田市、「自然の設計/Naturplan 鳥がいる庭 庭にいる鳥」実験スペースムーンハウス(ヨコハマアパートメント1F)。
同時開催:東京都現代美術館(前庭)「ブルームバーグ・パヴィリオン・プロジェクト #1 自然の設計 狩野哲郎展」開催。10月29日(土)~11月27日(日)

三嶋安住 Mishima Anju

過彼の絵は絵では無く、行為の表現です。ペンを動かすリズムが振動となり、深くに眠る点をひろいあげる。その点がシミとなり、影となり物語は動きはじめる。(三嶋りつ恵) 三嶋安住の絵のタイトルは、その語感や言葉の組立がどこか目や耳に馴染みにくい響きをもっているので、それを読んだり口にすると肌が粟立つことがある。しかし絵はどれも明快で最後まで描ききっていて清々しい。そこでもう一度タイトルを見直すと“ああ、これでよかったんだ!”と先ほどの違和感が嘘のように納得してしまう。これは絵とタイトル(言葉)が極めて自然な関係をつくっているからで、三嶋安住の場合、絵と言葉のどちらからも往き来できる水路を互いの岸辺に向けて通わせている。(O-JUN)

1990年ヴェネチア生まれ。ヴェネチア美術高等学校で1年を過ごし、2005年から東京に移住。2011年より母であるガラス作家・三嶋りつ恵と共に京都に拠点を移す。生まれながらに持つ難聴と自閉症という2つのキャラクターから湧きあがるモチベーションによって、子供の時から日々たゆまず、決まった時間に、絵を描き続けている。2011年個展「そのまま」アトリエ・アンジュ。

※全文提供: TAIRA MASAKO PRESS OFFICE


会期: 2011年10月13日(水)~2011年11月27日(日)
会場: TRAUMARIS|SPACE
営業:  16:00 - 24:00 (日曜14:00-22:00)
オープニング 10月21日(金)18:00-22:00 *リニューアル1周年感謝祭を兼ねております。

最終更新 2011年 10月 13日
 

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