江川純太:火星の記憶 |
展覧会 |
執筆: カロンズネット編集 |
公開日: 2010年 7月 12日 |
小学生の頃、授業で描いた絵を見た母親が、あまりの暗さに驚いて学校に電話してしまったことがあります。それはクラスメートと喧嘩した後に描いたものだったのですが、そのとき彼は、絵には心が投影され「嘘のつけない」ものであることを自覚します。その経験から江川純太(1978年神奈川生まれ)は、コミュニケーションの手段としてではなく、自己との対話としての絵画を制作しています。 絵具はみずからを励ます力であり、目前に広がる未知の荒野に入り込むことのできる鍵なのです。わずかな記憶を頼りに置いた色の破片をキャンバスに伸ばすことにより構成した画面は、イメージの解体と再構築を目指し、豊かな空間となって広がります。それは描き終えた一瞬の真実であり、翌日にはもう違う心の自分がいるかもしれません。しかしその偽らざる独白は、日々の暮らしの結晶と成り得るのです。 展覧会タイトルは安部公房の小説『人間そっくり』より。愛読する江川は、小説家とは対照的な内省的手法をもって「他者との通路」を開拓します。高度な情報化により逆説的にもたらされた虚ろな現代社会のなかで、江川純太の作品は夕暮れの蝉しぐれのように響き、心の空白を埋めていくでしょう。 江川 純太 ※全文提供: eitoeiko 会期: 2010年8月21日(土)-2010年9月18日(土) |
最終更新 2010年 8月 21日 |