小野耕石:Cultivate the Boulder Ⅱ |
展覧会 |
執筆: 記事中参照 |
公開日: 2009年 11月 15日 |
この度アートフロントグラフィックスではスクリーンプリントの新しい可能性を求め独自の表現方法を追求し、平面にとどまらず、立体、インスタレーションと幅広い作品を生み出している小野耕石の作品をご紹介します。スクリーンプリント(旧来のシルクスクリーンの技法)はそもそも平面に色彩を刷り重ねる技法で、アンディ・ウォーホルの一連の作品の様に重ねられた線や面の色彩が魅力的のひとつでもあります。小野の作品も重ねられた色が作品の見え方を規定してゆくという点では従来のスクリーンプリントと同じですが、小野の場合は面や線ではなく、平面上にうった手書きの無数のドットに60回から100回も色の層をすり重ねることで「インクの柱」を作り出します。インクの柱によって作品に立体ともいえる厚みを与え、視覚的に三次元の「もの」を作ることで、見る地点が違っても先験的に客体として作品がそこにある「平面」の作品である従来の版画から、見る者の視点やライティングなど、場所の条件によって見え方を変化させる「もの」へと作品を変移させています。 小野のインクの重なりは版画技法にある「エディション」の従来の理解にも新鮮な違いを感じさせてくれます。小野の作品の場合、たとえ同じ版を使用しても、そこに積み重なるインクの重なりは刷る際のちょっとした偶然によって、最終的には大きな違い・個性を一つ一つのエディションに与えます。 同じタイトルを持っていてもエディション毎にまったく違う別個の作品であって、同じ製作の瞬間を共時しているわけでもなく、独立した作品としてこれからもそれぞれが別の時間を過ごしてゆくであろうことを感じさせます。同時にドットに積み重ねられたカラフルな柱のレイヤーからは、従来の版画という技法からは感じにくい作家の反復的な「行為」と、気の遠くなるような「時間」の重なりを感じることができます。 例えば、2008年に制作された作品「徒花」では小さな蝉の抜け殻に無数のインクの柱が丹念に貼りこまれており、短い蝉の命に作家の行為を通した新しい時間、新しい「生」が重ねられているようです。作品づくりのインスピレーションを自然から得るという小野だけに、作品からは脈々と受け継がれてきた、自然の営みや時の流れに対する作者の視線が垣間見え、その奥深さが見る人を魅了するのでしょう。蝉の抜け殻など作家が選び出す支持体としての異質なメディウムとインクの出会いは今後も新しい展開を見せて行ってくれるでしょう。 近年はアジアを中心とした海外でも注目されており、Seoul International Print, Photo & Edition Works Art Fair (SIPA)では、若手アーティスト1名を選び、個展を開催してもらう「アジア・ベルト・アーティスト・プロジェクト」の2010年の招待作家にも選ばれています。アートフロントグラフィックスの展示ではドットに至る前の初期立体版画作品から、今年の夏に「犬島時間」のインスタレーションから発展した新作など、多くの作品をご紹介します。これらの作品群からは、常に多様なベクトルをも見据えながら創作を行う作家の断面が浮かびあがってくるでしょう。 略歴 個展 賞 全文提供: アートフロントギャラリー |
最終更新 2009年 11月 10日 |