松井亜希子:冬の水 うつろう光影 |
展覧会 |
執筆: カロンズネット編集 |
公開日: 2011年 1月 17日 |
渦を巻く黒く冷たい水の上のメリーゴーランド。写真のように精緻で端正なモノクロームの画面は180cmの大きさの銅版画です。 メリーゴーランドの白い馬が回転し、水面に白波がキラキラと輝くさまには躍動感がありますが、人影もなくメリーゴーランドが直接水上に浮かぶ非現実な光景は、どこかシーンと静まり返り、見る者の心を内面的な世界へと誘います。 作家の松井亜希子は、昨年京都芸術大学大学院を修了したばかりの銅版画家です。この作品は村上春樹の短編集「回転木馬のデッド・ヒート」から生まれました。「人生をメリーゴーランドに譬え、人生は何処にも行けない運行システムで巡回し、人はその上でデット・ヒートを繰り返している、そしてある種の無力感に捉われている」という話にリアリティを感じ、そこから自分自身の存在への疑問、日々感じる欠落感や喪失感、無力感を表したいと考え、モチーフとして水を選びました。水面に映っているものは全て虚像で、常にうつろうものの象徴として捉えられ、これをテーマに制作をしています。水の冷たさや突き放したような距離感も、版を介することで現れる重要な要素のひとつです。 水鏡や水景のほか、ガラス張りの高層ビルに映るさまざまな像、ヨーロッパの陰影の強い光など、うつろい、たゆたう光がモチーフの作品もあり、自分自身で撮影した写真を幾重にも重ねた独自の画面構成によって、20代の閉塞的な心象風景を描き出しています。同時にたっぷりとした水の豊かな表情、光の眩さには若い作家に内包された力強さ、たくましさ、開放感を感じさせる作品です。今展では横200cmの大阪の水景をモチーフにした新作も加え、7点を展示します。東京初個展となる松井亜希子の、静謐さに包まれるようなダイナミックな世界をご覧下さい。 松井亜希子 ●個展 ●グループ展 ●受賞歴 ※全文提供: INAXギャラリー 会期: 2011年2月1日(火)-2011年2月24日(木) |
最終更新 2011年 2月 01日 |