10days セレクション-予兆のかたち11-:赤坂有芽 |
展覧会 |
執筆: カロンズネット編集 |
公開日: 2010年 7月 12日 |
池に落とされた石が沈殿した泥をかき乱すように、昔の出来事がふと降りてきて、残った気配がふわりと立ち昇る。浮かんだ記憶の断片は、鳥になり、蝶になり、女になり、無言のままゆるやかに飛んで消えていく。 赤坂有芽は、鳥や人だけが虚空に浮遊するシンプルな映像によって、ものや場所へ込められた記憶を表現します。夢うつつ、場の記憶、ものに残る人の思い。それらを掬い上げ、かたちづくられたモチーフが黒い背景に白く浮かんでは変化して、溶けるように消えていきます。映像は特別なストーリーを持たず、物の輪郭は曖昧です。そこから放たれる存在感は、見るというより、残り香や閉じた瞼の裏に透ける光を感じる体験に近いものです。 大学・大学院で絵画科だった赤坂は、2004 年に初めて映像作品「重なりつもっていく」を制作。単純な原理の映写機を自らつくり、飛行機が過ぎていくだけの影を小さなホワイトキューブに映しました。成田空港から飛び立つ飛行機に、9.11 をTV で見た記憶が甦り、複数の人々と自らの記憶が複雑に絡み合う作品をつくります。赤坂の制作方法は独特で、写真や絵から1 枚1 枚の静止画をつくり、数千枚重ねた層を時系列で映像にしていきます。圧縮されたイメージが積層して時間となり、そこにパソコンのモニターを通して触れていく作業が、積み重なる記憶のかたちと、呼び覚ます現在との身体的な関係に似ていると言います。 これまでに群馬青年ビエンナーレ(2008)、東京アートアワード(2009)、在日フランス大使館旧庁舎解体前プロジェクトNo man's land(2009)などに選出され、夢と現実の境目、記憶とものの関係へと常に回帰していく、重厚でありながら軽やかな作品は評価を得てきました。 今展では会場内に「蚊帳」を吊るし、青い蚊帳のうちと外、虫、川遊び、子供の頃の夏休みの思い出、古い家での暮らしなどを絡めた、真夏の白昼夢のような新作を発表します。ぜひ会場でご覧ください。 赤坂有芽 ※全文提供: INAX ギャラリー 会期: 2010年8月19日(木)-2010年8月28日(土) |
最終更新 2010年 8月 19日 |