作品紹介 ハンス・ヨゼフソンの彫刻作品はすべて人間をモチーフとしています。抽象化されたそれらには、かろうじて体の部位を判別できるものもあります。石膏で制作され、鋳造を経てブロンズに生まれ変わる作品は、古代彫刻を思わせる有機的でシンプルな、一見したところ静かに瞑想をしているようなたたずまいをもっています。しかし彼の手仕事の痕跡が残された表面には、様々な感覚、リズムが刻み込まれ、また作品一点一点に凝縮されたエネルギー、ウド・キッテルマン(ベルリン国立美術館館長)がいう「本質的な何か、その物体としてのあり方を超えた何か」を感じることができます(カタログ"Kesselhaus Josephsohn"掲載のテキストより)。それはヨゼフソンの制作が、人間の生、往々にして身近な人々からのインスピレーションから始まり、作業のプロセスが彫刻それ自体の言語において進められ、アイデアがフォルムのなかでそれ自体の表現をし、そして彫刻が生をもった時に終わるからだということができるでしょう。それによって彼の作品は、人間の忠実な描写でなくして生き生きとし、かつ無時間性、不変性をたたえているのです。
1960年以降、彫刻の領域において、その既存のカテゴリーの一貫性を解体する様々な試みがなされています。1920年生まれのヨゼフソンは、チューリッヒ郊外のアトリエで60年間以上、彼の想像力に従った一貫した制作を続けてきました。その独立性と芸術的自由から生み出された作品は、スイス国外での展示の機会が少なく、90年代まで十分な評価を得ていませんでした。以降は広く注目されるようになり、2007年には"Art in America"誌で「87才にしてヨゼフソンは、キャリアの中で最も力強い作品を作り、彼が最も重要な具象彫刻の作家であることを示した」と評されました。現在もヨゼフソンは、そこには全てが表現されている、と彼のいう人間の身体を作り続けています。
展覧会について 本展は1956-58年の作品から2006年のものまで、ヨゼフソンの長年の制作の全体像を紹介する内容となります。80年代から制作し始めた"semi-figure"と呼ばれる女性の胸像は、柔らかな印象をもち、人間存在のはかなさへの洞察を表現したものです。横になった女性の像は、長い間制作され続けたモチーフです。70年代に制作を一度止め、20年の間を経た後に再開しましたが、毎回新しい側面があるとヨゼフソンは話しています。一方レリーフは群像、人間同士の関係や出来事、シーンを描き、キャリアを通じて制作されてきました。この他に立像を含め、約15点を展示。またドキュメンタリー映画"Josephson Bildhauer"(Matthias Kalin and Laurin Merz監督、英語字幕有)もギャラリー内にて放映いたします。この機会に是非ご高覧ください。
作家プロフィール ハンス・ヨゼフソンは1920年、当時の東プロイセン、ケーニヒスベルグ(現在のカリーニングラード)に生まれました。1937年に彫刻を学ぶためフィレンツェへ移りますが、ファシズムのなか1938年、スイスへ亡命。チューリッヒにてOtto Mullerのもとで彫刻を学びます。以降、現在までチューリッヒを拠点に活動。
作品はスイスのSt. GallenにあるKesselhaus Josephsohn、そしてヨゼフソンに影響を受けた建築家 Peter Markliによって設計された、南スイス、GiornicoのLa Congiuntaの2つの常設美術館に展示されています。主な美術館での個展にThe Stedelijk Museum(アムステルダム、2002年)、Frankfurt Museum of Modern Art(ドイツ、2008年)があり、ギャラリーではHauser & Wirth(ロンドン、チューリッヒ)で3度の個展を開催。主なグループ展にパレ・ド・トーキョーでの"The Third Mind"(パリ、2007-08年)があります。2003年にはチューリッヒ市芸術賞を受賞。今回は国内初の個展となります。 ※バイオグラフィ / 展覧会歴 参照サイト Hauser & Wirth( http://www.hauserwirth.com/artists/41/josephsohn/biography/)
全文提供: 小山登美夫ギャラリー
会期: 2011年4月23日(土)-2011年6月4日(土) 会場: 小山登美夫ギャラリー 東京7F
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