彫刻家エル・アナツイのアフリカ |
展覧会 |
執筆: カロンズネット編集 |
公開日: 2010年 12月 20日 |
エル・アナツイは、現代アフリカ美術に対する関心が高まるなかで、最も注目されている彫刻家です。1944 年、西アフリカのガーナ(当時、イギリス領ゴールドコースト)で生まれ、ガーナの古都クマシにあるンクルマ科学技術大学で彫刻を学び、木彫の制作を始めます。1975 年にナイジェリア大学で教鞭をとるのを機に、同大学のあるンスカへ移り、現在もンスカのアトリエを拠点に旺盛な制作活動を続けています。 アナツイの作風は2000 年頃を境に大きく変化します。初期(1970 年代~ 80 年代) は、ガーナの伝承や染色布(アジンクラ)、ナイジェリアの伝統的な装飾文様(ウリ)などに影響を受けた木彫や木のパネル、セラミックのオブジェなどを制作し、木を丸ノミやチェーン・ソーで削ったり、炎で焼き焦がしたり、彩色して施した大胆で繊細な表現を特徴としていました。1990 年、アフリカの作家としては初めて、ヴェネツィア・ビエンナーレに参加し、選外佳作賞を受賞します。その後、欧米、南米での発表を通して、作風にインスタレーションの意識が生まれ、それは2000 年頃から巨大なタペストリーを思わせるメタル・ワークの制作へと展開してゆきます。大量のワインやアルコール飲料の廃材キャップを、ひとつひとつ銅線で繋いで編み上げてつくる巨大なメタルの「タペストリー」は、作家が偶然、ンスカの藪の中でアルコール飲料のボトルがつまったゴミ袋を目にしたことが契機となっています。空間に吊るされ、彩り豊かな眩い光を放つ「メタル・タペストリー」は、廃材であったとは想えないような新たな姿に再生され、見る人を圧倒することでしょう。 アナツイのタペストリーは、しばしばガーナの伝統的な織物(ケンテ)との関連を指摘されたり、ゴミを再利用して生活しているアフリカの現実風景が織り込められているとも言えますが、むしろ、アナツイ自身が好む言葉「versatile」(多芸な、変わりやすいの意)に寄り添うならば、タペストリーには、一つの見方に定まらず、変幻自在に移ろうイメージや意味を内包する魅力があることに気づかされるでしょう。 こうしたタペストリーを連想させる作品は、二度目の招待出品となった2007 年のヴェネツィア・ビエンナーレや、2004 年から2007 年、東京を含む世界6都市を巡回した「アフリカ・リミックス」展などの主要な国際展でもたびたび紹介され、世界的に高い評価を得ています。 また、アナツイの木彫は、日本でも「インサイド・ストーリー 同時代のアフリカ美術展」(1995 年)や、「大阪トリエンナーレ」(1995 年、1998 年)などで紹介されてきましたが、今回は90 年代の木彫に加え、新作6 点を含む近作を中心として構成された、世界的にも例をみない大規模な回顧展です。 エル・アナツイ アーティスト・トーク ※全文提供: 神奈川県立近代美術館 会期: 2011年2月5日(土)-2011年3月27日(日) |
最終更新 2011年 2月 05日 |