佐東恵:虹彩の断層 |
展覧会 |
執筆: カロンズネット編集 |
公開日: 2010年 1月 18日 |
グリーン、ピンク、ブルー、オレンジと明るく軽やかな色が流れるようなかたちとなって、画面に満ちています。レリーフ状に重なる色の帯は細かな網目を重ねたようにも、弾かれた油膜のようにも見え、複雑な色模様をつくり出しています。 佐東恵の作品は、パネルに8層ほど塗り重ねた油絵具の層を彫刻刀やカッターナイフで削りとることで、地図やマーブル模様を思わせる抽象的なかたちを表出させた平面です。 削られた一線一片は鋭利さを残し、一見するとデジタル処理されたかたちを思わせますが、そのイメージは木の幹を覆うギザギザとした木肌や、植物細胞の顕微鏡写真からとられています。また、重ねられたひとつひとつの色は自然の風景のなかに積層した大きな時間の流れや記憶に通じています。 大きいものでは一辺180cm を超えるパネルのほか、箱のように奥行きのある立体の側面にまで同じ手法を用いた作品もあります。正面から見える「絵画」が横へ、領域をのびやかに拡大していくさまは、木が自然と伸びていくのと同様に、連なって先へと進む時間の深みをも見るものに感じさせます。 そのイメージの内側には、秋田に生まれ、豊かな自然の営みを日常としながら今も東北で制作を続ける佐東の体験と独特の豊かな色彩感覚があります。 2009 年に大学院を修了した若手作家の東京での初個展となります。どうぞ会場で一足先に春のあたたかさをご覧ください。 [佐東恵(SATO MEGUMI)プロフィール ※全文提供: INAXギャラリー2 |
最終更新 2010年 2月 01日 |
油絵の具の特徴として、1度塗った絵の具が乾けば、その上から重ね塗りをしても、色が混じらないという点がある。それゆえに油絵は複雑で深みある絵画層を築けるのだ。そんな油絵の具の特性を効果的に技法へと昇華したのが佐東恵の試みである。佐東は下塗剤を塗ったパネルの上に油絵の具を8層ほど塗り重ねた後、彫刻刀やカッターで画面を削り、彫ることで平面作品を制作するのである。そのような技法を知ると斎藤義重のドリルで制作されたレリーフ状の平面作品を想起させられるが、佐東の絵画にはそんな荒々しさはない。精巧な画面に見え隠れする色彩層は、虹のように、下層にある色層の豊かさを想起させるだろう。 そういえば、日本では虹の色は7色だと言われる。佐東の絵画は虹色で作られているのだろうか。