Physical side |
展覧会 |
執筆: 記事中参照 |
公開日: 2011年 5月 07日 |
現代の社会では、建築や音楽、服物作りにおいて、どの分野も物が出来る過程は細分化され、よりハイテク化・記号化しています。建築は資材の重たさや施工現場を知らずに設計者が設計するのが現状で、北京オリンピックの鳥の巣というまさに机上の発想が具現化してしまう現実があります。音楽も、オリジナルな発想と言うより、膨大なデータベースを元に作曲家が作曲し、演者が演奏する分業化は当たり前であり、服造りにおいてもしかりです。しかし、美術作品においては、着想から創造、制作全般(下地素材から絵具の選択と制作に必要な技術)を全て一人の作家の仕事によって遂行する場合が殆どです。 特に、日本と欧米では作品の制作順序が逆で、日本は細部の詰めから全体の作品が形成されていきますが、欧米では全体の構想を決めて細部を詰めていくので、日本は細部重視で欧米は全体重視になり、日本の鑑賞者は細部により作家性を求める傾向があります。 今展は、絵画作品制作において重要である細部を具現化するのに必要な物理的な面をいま一度クローズアップしたいと考えています。それは、膨大な鍛錬の積み重ねにより会得した技術と集中力を要する制作時間を可能にする肉体的側面を注視し、それを感じて頂ける作家、作品を選定いたしました。出品作家は、タブロー2作品を発表致します。 【出展作家】 小勝負恵 Megumi Coshoubu 寺林武洋 Takehiro Terabayashi 安冨洋貴 Hiroki Yasutomi 柿沼瑞輝 Mizuki Kakinuma ※全文提供: Yoshimi Arts 会期: 2011年6月13日(月)-2011年7月10日(日) |
最終更新 2011年 6月 13日 |
今展のタイトル「physical side」とは絵画制作における肉体的側面を意味し、鍛錬に積み重ねた技術と集中力によって制作された作品を展覧する試みである。
寺林武洋は、写実的に描かれた『手』を、安冨洋貴は鉛筆によって水たまりに落ちたビニール傘を光と影のコントラストが美しい雨の情景を描き出す。テンペラによって描く小田志保はハッチングの重なりがノイジーな画面を生成する人物画、小勝負は窓型の構造を持つキャンバスに風刺画風な世界を描く。
これら所属作家を中心とするグループ展のなかに、柿沼瑞輝の厚く盛られた油絵具の塊、激しい筆のストロークが衝動的、身体的な熱さをとくに感じさせる。洗練された高い技術力が発揮された絵画のなかにあって、柿沼の絵画は稚拙ながらも引き寄せられる魔力がある。このヴァイオレントな熱気こそ、絵画のもう1つのphysical sideであり、近年の絵画に欠けているものかもしれない。