心の眼:稲越功一の写真 |
展覧会 |
執筆: 記事中参照 |
公開日: 2009年 10月 02日 |
1960 年代後半から顕著になるプライベートな眼差しで日常的な光景を切り取った稲越功一(1941-2009)の写真表現は、その後の日本の写真に新たな水脈をもたらしたといってよいでしょう。 稲越功一は、コマーシャル写真家として活躍を始めると同時に、自分自身のために写真を撮り始め写真集『Maybe Maybe』(1971)を刊行し、シリアス・フォトの写真家として注目を集めました。その後も、エディトリアルの写真家や肖像写真家として多彩な活動を展開する一方、プライベートで純粋なスナップショットの眼差しで風景を撮影し続け、写真集『記憶都市』(1987)、『Out of Season』(1996)、『Ailleurs』(1996)などを刊行していきます。 本展覧会では、70 年代初頭に注目されたスナップショットの眼差しの系譜を、日常的な光景をモノクロームでとらえた作品を中心にたどろうとするものです。そこには多彩な写真家稲越功一の原点があきらかにされるだけではなく、シリアス・フォトの眼差しがとらえた時代の風景、時代の感性が見て取れるはずです。 稲越 功一 (いなこし こういち) 略歴 全文提供: 東京都写真美術館 |
最終更新 2009年 8月 20日 |
2009年2月25日に急逝した写真家・稲越巧一の没後初個展。というよりは、生前から準備していた展覧会であるため、生前最後の展覧会として主催者は考えているようだ。 会場は全三フロアある写真美術館の地下一階で、珍しくエントランスから展示室奥までがパーテーションもなく一続きの空間として広く使用されている。整然と、時系列順に並べられた古くは≪maybe,maybe≫(1971年)から直近の≪芭蕉景≫(2009年)までの全七シリーズが明らかにするのは、稲越の視線が次第に人工から自然の情景へと移り変わっていることだろう。≪まだ見ぬ中国≫(2008年)や≪芭蕉景≫が写す茫漠とした風景は、「まだ見ぬ」とあるように捉え難きを捉えんとする稲越の世界観の拡張を見せる。