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野原健司:逆さまDrop
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2009年 11月 07日

画像提供:児玉画廊

野原はこれまでも平面、立体、およびインスタレーション作品を制作してきましたが、常に使用される素材として古い雑誌や広告、布の端切れ、壊れた何かの機械部品、街中で拾った廃品など、すでにその用を終えたいわゆる不要品を作品に取り込んでいます。秘密基地を作ったり、自分達だけの物語りで遊ぶ子供達のように、野原にとっては、集めた様々な物の壊れ方一つ、汚れ方一つこそがイマジネーションを生む最大の魅力であり、それら小さなきっかけとの出会いを入口として野原の作品世界は広がっていきます。野原がライフワークとして制作し続けているドローイングブックはそうした世界観を凝縮したものと言えます。綴じきれないほどに積層し一分の隙もなく描き込まれたページのそれぞれは作家の激流のようなイマジネーションをとどめるアルバム的な意味合いだけでなく、ページを開くたびに幻想と奇想の世界が次々と開かれていくようです。何かの部品や布きれを樹脂でびっしりと癒着させた過剰な装丁や、はみ出した紙片やゴワゴワした貼付けの手触りなどのすべてが、尋常でない作家の想像力を物語っています。 ペインティングや立体作品においても同様に、作品がキャンバスの枠から溢れて続いているのではないかと思わせるような、あるいは上下左右に増殖し、はみ出そうとする動きを押さえきれない立体作品の造形のような、そうした生き物のように能動的で流動するイマジネーションが空間にジワジワと伝播し、やがて一つの空間を支配してしまいます。 今回発表される展覧会では、反復や反転、あるいは反射するイメージが空間全体にちりばめられています。物干竿を壁から壁へ跳ね返るようなジグザグで渡し、そこには雑多なものが吊るされ揺らめいています。突如として大きな足や手をイメージさせる造形物が浮かんでいたり、そうかと思えば床にはいくつもの鏡が水たまりのように配されて、吊るされたオブジェや壁面のペインティングを写し取り、また、細い木材の骨組みでできた立体作品が鏡面を境に地上と地下とへ対象に伸びて行くような、そんな幻視的な光景に満ちた展示空間に身を置く内に、いつしか空間全体が自然の法則を無視して揺らぎ始めます。雨粒が落ちて水面の景色を揺らめかせるのとは逆に、野原は空間そのものを歪めてしまいたいのではないか、そう思わせる程にそこここに摂理に逆らうようにして存在する物体と空間のその不条理な関係性。この、展覧会タイトルにもある「逆さま」であること、それは鏡像のような、あるいは理に逆らうような現象を呼び起こすことであり、そうするべくして空間や次元を超越して延伸していくような造形を生み出し続けている野原自身の存在のステートメントであるように思えます。

※全文提供: 児玉画廊

最終更新 2009年 11月 07日
 

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