H.P.FRANCE WINDOW GALLERY にて、田村久美子個展「The remains of the moment」を開催いたします。 地平線を２分割したシンプルな構図と厚みのある画面構成によって大地と空を描く作品を中心に発表してきた田村ですが、本展ではスペースを活かし た１３０号の大作を発表し、『作品が風景となり得る、ひとりひとりの「時」をつくり出す空間』を作り上げます。 是非この機会にご高覧いただきますようお願いいたします。

［作家コメント］
ひとつの世界を構築するものは、大小さまざまなファクターの集積である。描きだされるセカイも、綯い交ぜに重なり見てきた日々の記憶であり、記録であり、そしてイメージの集積である。移り変わる時の中で色を重ね、けずり、そして、また何度も色と線を重ねる。その行為はまるで自然の表情を読み解き、世界を読み解いていくようだ。しかしキャンバスに描かれた世界は、絵の具によって質感を重ねていくことで、本来の風景が持っている存在感からは大きく変化していく。描いていくことにより、未知の領域として新たな世界へと生まれ変わる。
現れた新たな風景、それはどこでもないどこかであり、名前のない風景。人はその世界に名前を探し始める。
わかりたい、取り入れたい、知りたい、それが何であるのか、見えているものが何であるのか、定めるために名前をつけ、己に近づける。心を許すことで、神聖化していくようにそれは特別な場所になる。誰かの何かになるために。
地平線を２分割したシンプルな構図と厚みのある画面構成によって描かれる鮮やかな大地と空。地球を構成する大きな要素をソリッドに表現することは、
混沌とした日常を浄化する作業でもあり作品制作における大切なファクターである。そこに描かれている大地、大気、生命は整然としたセカイを通して、はっきりとその雄大さと存在を伝えてくる。
残されていく風景であること。自然と対峙した時、私たちは言いようのない深い感動を受け取る。それはこの世界でずっと繋がってきて、その時代時代の人々が見てきた風景と全く同じ風景を体感できている神秘、偉大さであり、作品もそういうものになり得るのではないだろうか。受け継がれていくもののひとつとして、体感するという身体性を持ち、遺る作品。
平面でありながら立体としても存在する「絵画」は、かつての屏風絵のように空間に奥行きを与える。空間は、絵画と観る者の身体の関係性によって成立する。切断と連続性が与えられ、どこでもないどこかを映し出し、セカイはキャンバスを越えて広がりだす、広がり続けるセカイは、はるかなる想像力をかきたてる。

見渡すこの街は、たくさんの人や出来事がありすぎて、個々の色を失い灰色に染まっていく。現実の慌ただしさもひとつのトーンの中に埋もれていく。その中で作品は色を放ち、形を呼び起こし、覚醒させいていく。
大都市であるこの東京、丸の内という多くの人々が行き交う場所で、ギャラリーや美術館のような区切られた空間とは違う展示空間に作用する作品として、あえて大きな作品を選び、作品が風景となり得る、その場所で「人を巻き込んでいく力」をもつ作品を発表したいという願いがある。ただ通り過ぎてしまいながらも、しっかりとした生命力を放つ作品が「ある」ということを知っている。ある時は待ち合わせ場所になるような、ひとりひとりの「時」をつくり出す空間になることを願います。

田村久美子

［作家プロフィール］
田村久美子

1979 長野県生まれ
2003 日本大学芸術学部美術学科絵画コース卒業
2003-2005 渡英、内 1 年間 Byam Shaw School of Art@ CSM London 在籍/修了
活動略歴 / Activity

2011 WILD NATURE, （Primo Piano LivinGallery、イタリア）
グループ展「OUT」 （HALCA gallery、東京）
THE MERCHANT OF DREAMS SHOW （Primo Piano LivinGallery、イタリア）
2010 N 展 2010 春の嵐：日藝美術出身の若手作家たちの今」 練馬区立美術館、東京
グループ展「生命 ０ ゼロ展」 （id Gallery、京都）
UK-JAPAN ADF Award 2010 （ROA Gallery、ロンドン）
INSIDE-OUTSIDE the invisibility of the landscape visible （Primo Piano Livingallery、イタリア）
2009 グループ展「Identity / London-Tokyo」 （AISHO MIURA ARTS、東京）
個展 「out of the mountain」 （AISHO MIURA ARTS、東京）
グループ展「挑戦する表現者たち～超絶技巧の誘い～」 （名古屋松坂屋画廊、名古屋）

受賞暦 Prize&Award
2007 “amuse art jam 2007” ベネッセ特別賞受賞
2009 “art_icle Award 2009” 入選