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TWS-Emerging 184/185/186/187
展覧会
執筆: カロンズネット編集3   
公開日: 2012年 6月 29日

TWS-Emerging 184
伊藤純代《Her memory》 2012、ミクストメディア

TWS-Emerging 185
あべゆか 《BUG WORLD》 2011、カンヴァス、油彩

TWS-Emerging 186
及川さとみ 《裏山しい冒険》 2011~2012、 カンヴァス、アクリル絵具、コラージュ

TWS-Emerging 187
唐仁原 希 《STAR》 2011、カンヴァス、油彩

伊藤と及川は現在山形を拠点に制作している作家で、伊藤は2011年度のトーキョーワンダーウォール大賞(立体部門)、及川はワンダーウォール賞の受賞者です。

伊藤の個展タイトルは「Her Memory」。あどけない幼少時の純粋無垢な好奇心や探究心をきっかけにした行為は、時にグロテスクで残酷な要素を孕んでいるようにも見えます。そんな光景を目にした記憶や自身の体験、皆さんの記憶にも隠れてはいませんか。しかし、年齢を経るごとに、他者と相互に機能し合い共存していくために構築された道徳や社会規範に従い、欲動・暴力的要素を隠蔽して生きていくのが常です。道徳理念を基準として(理想の形として)創出された、合理的でいかにも清冽たる商品が多く氾濫している中、伊藤は幼少期の自らよろしく「好奇心で見たいもの」を見続けるために制作しているのだ、といいます。彼女は自身の作品世界をおままごとの世界と例えます。彫刻作品ではなく人形を作っている感覚という伊藤の展示会場は、作者と鑑賞者の共通に抱く記憶の接点となるだけではなく、自己と他者という最低限のコミュニティを示す家族単位での演技=「おままごと」と大人になってしまった私たちが安住している大きな社会の中での自分自身の在り方を今一度みつめる場となるかもしれません。
一方の及川の個展は「裏山しい冒険」。彼女は常に「山」と向き合います。大量生産される雑誌やチラシのイメージを無数にコラージュし作品を制作する彼女の「山」とは、彼女の創作への欲求や試行錯誤、そして日々の生活への不安や未来への思いの蓄積です。「その欲求の蓄積は自分の中で雪のように深々と降り積もる。でも、つくる事に追いつかぬままその世界の標高は常に増していく。その理想の山は頭の中で築けど頂上は遠のく一方。ただ裾野を右往左往するばかり(及川ステートメントより抜粋)」と悩みもがきつつも、その山を越え、自分の理想世界・新しい風景を見出そうと制作を続けます。本展では、来場者の皆さんには懐中電灯を携え、彼女の見る山々やパースペクティブをお楽しみ頂きます。
あべゆかは、これまで油彩で描かれるストーリーを持ったシリーズ作品に取り組んできました。しかし、彼女の描く「欲望の国」はファンタジックな異世界を想像しているのではなく、人間の欲望や愚かさが生々しく露呈される(私たちが存在する)この世界を示しているといいます。たったひとりの力で世界が変わることはない、というもどかしさと安堵を覚えながら社会をまなざすあべゆかの視線の先には、常に人間の日々の営みがあります。欲望を抱えた人間の犯す過ちやとりまく激情、それらをあべゆかは「愛おしい」と包み込み表現します。
唐仁原は、美術の教科書で一度は目にした事のある古典的な西洋絵画の構図を意図的に導入して表現するペインターです。彼女が鮮やかな色調で丹念に描くのは「失われてしまったもの」。描かれた・あるいは写真に撮影された風景や人物というのは、時として、既にこの世には無い存在であったりします。思い出の品や遺品などといった個人の記憶にまつわる大切なものが失われてしまう時こそ、消失を回避する事は出来ないと知りながらもそれを留めようと試みるのも人の特性です。唐仁原は、そうして留まっている品々が時世を超えて他者の記憶へとリンクする装置となり得る事に関心を覚えます。
少女漫画の描写にも似た大きくデフォルメされた目をもつ画中の人物たちの幼なげな表情がサウダージを醸し出すなかで、どこかのとある個人邸宅で蒐集されたコレクションや思い出の品の数々がTWS本郷の展示会場(ホワイトキューブ)に持ち込まれたかのようなぎこちない空間から見えるものとは...。是非会場でお楽しみください。

[作家プロフィール]
伊藤純代 SUMIYO ITO

1982 長野県生まれ
2007 武蔵野美術大学造形学部彫刻学科専攻 卒業
2009 武蔵野美術大学大学院造形研究科彫刻専攻 修了

主な個展
2011 おままごと、NANZUKA UNDERGROUND、東京
2011 EMERALD、ギャラリー現、東京
2011 Girls Generation、switch point、東京
2010 Another girl、ギャラリー現、東京
2009 TOY BOX、ギャラリー現、東京
2009 秘め事、switch point、東京

主なグループ展
2011 シャッフル、NANZUKA UNDERGROUD、東京
2011 トーキョ-ワンダーウォール公募2011入選作品展、東京都現代美術館、東京
2011 第6回大黒屋現代アート公募展、板室温泉大黒屋、栃木
2010 とよた美術展2010、豊田市美術館、愛知
2010 第5回大黒屋現代アート公募展、板室温泉大黒屋、栃木
2009 AMUSE ART JAM 2009、京都文化博物館、京都

主な受賞
2011 トーキョーワンダーウォール公募2011、大賞、東京都現代美術館、東京
2011 第6回大黒屋現代アート公募展、入選、板室温泉、栃木
2010 とよた美術展2010、準大賞、豊田市美術館、愛知
2010 第5回大黒屋現代アート公募展、入選、板室温泉、栃木
2009 AMUSE ART JAM 2009、入選、京都文化博物館、京都

「私は子供の頃、捕まえたトンボの内側を見たいが為にその殻を剥く行為を繰り返した。繰り返すことで恐怖が麻痺し、内臓の美しさを堪能し、その生と死の循環を手の中で転がすようであったように思う。」 子供の頃の好奇心は時に大人にとって“不気味なもの”で、大人のそれよりずっと動物的で本能的である。社会の中で倫理や道徳を学び子供のそれを自ら抑圧してしまうのだ。 抑圧したものを露出することはタブーとされ、完全に理想化された物体が世の中に氾濫する。しかし子供であった私ならその中にある内蔵を見たいが為に内側の世界を思いその生と死を支配したいに違いない。 私が作る彫刻はエロースとタナトスの循環を(すくなくとも現実では操れないその循環を)支配する快楽を得たいという行為から生まれる塊である。


あべゆか ABE YUKA

1986 東京都生まれ
2009 東京芸術大学 美術学部 絵画科油画専攻 卒業
2011 東京芸術大学大学院 美術研究科 絵画専攻油画 修了

主な個展
2011 THE NEW WORLD、Pepper's Gallery、東京

主なグループ展
2012 TOKYO≒NY、WILLIAMSBURG ART&HISTORICAL CENTER、ニューヨーク、アメリカ
2011 東京芸術大学卒業・修了作品展、東京芸術大学、東京
2011 トーキョーワンダーウォール公募2011入選作品展、東京都現代美術館、東京
2011 chips 2011、横浜赤レンガ倉庫、神奈川
2010 4、東京藝術大学学生会館、東京
2010 第4回汐留クリエイターズコンペティション、汐留シオサイト、東京
2010 第9回三菱商事アートゲートプログラム、表参道EYE OF GYRE、東京
2009 東京芸術大学 卒業・修了作品展、東京都美術館、東京
2009 第77回独立美術展、国立新美術館、東京

主な受賞
2008 第22回ホルベインスカラシップ奨学生

パブリック・コレクション
≪いのち≫ 源泉湯の宿「松乃井」、群馬
≪自画像≫ 東京芸術大学美術館、東京

欲望の国 —THE WORLD NAMED DESIRE— 「あわよくば、世界を救いたいし世界征服だってしたい。」 欲望を通してみたモノの価値に信憑性はない。 手に入らないから欲しい。その対象本来の価値は重要ではない。 欲望の根底は大抵愚かな思考に始まる。 欲望を取り巻く奇妙な矛盾状態は心地良く、腹立たしい。 怒りやもどかしさはまた、衝動にかわる。 欲しているモノは刺激で、癒しじゃない。 欲にまみれて疾走する人の愚かさは魅力的で愛おしい。 強く駆られる程に、世界なんてどうでもよくなる。 若さや可能性は愚かで残酷で、大抵の物事は気づいた時には手遅れで。 幼い愚かさを笑い飛ばして、完璧じゃない大人になる。 これから先、もっと沢山の汚い世界を見て、それでも希望だの夢だの宣いながら生きてゆく。 願わくは欲望の国で、散るまで華麗に疾走したい。


及川さとみ Satomi Oikawa

1984 岩手県生まれ
2007 東北芸術工科大学 洋画コース 版画専攻 卒業

主な個展
2011 トーキョーワンダーウォール2011都庁、東京都庁、東京

主なグループ展
2011 第5回グラフィック「1_WALL」展、ガーディアン・ガーデン、東京
2011 トーキョーワンダーウォール公募2011、東京都現代美術館、東京
2011 ワンダーシード2011、トーキョーワンダーサイト渋谷、東京
2007 ワンダーシード2007、トーキョーワンダーサイト渋谷、東京

主な受賞
2011 第5回グラフィック「1_WALL」、入選、ガーディアン・ガーデン、東京
2011 トーキョーワンダーウォール公募2011、トーキョーワンダーウォール賞、東京都現代美術館、東京
2011 ワンダーシード2011、入選、トーキョーワンダーサイト渋谷、東京
2007 ワンダーシード2007、入選、トーキョーワンダーサイト渋谷、東京

手に入れたい理想の世界は自分でつくるしかない。すでにあるものにも満足できないし、盗めない。その欲求の蓄積は自分の中で雪のように深々と降り積もる。でも、つくる事に追いつかぬままその世界の標高は常に増していく。その理想の山は頭の中で築けど頂上は遠のく一方。ただ裾野を右往左往するばかりでいる。たいして明るくもなければ、決して真っ暗闇でもないそのけもの道を歩き、迷い、躓き、進む。それは果てのない冒険。そこからみえる風景を手に入れるための冒険。


唐仁原 希 NOZOMI TOJINBARA

1984 滋賀生まれ
2009 京都市立芸術大学 美術学部 美術学科 油画専攻 卒業
2011 京都市立芸術大学大学院 美術研究科 絵画(油画)専攻 修了

主な個展
2010 TOJINBARA nozomi painting、MATSUO MEGUMI +VOICE GALLERY pfs/w、京都
2009 Nozomi Toujinbara Exhibition、ギャラリー編、大阪
2009 Nozomi Toujinbara Exhibition、番画廊、大阪
2008 Nozomi Toujinbara Exhibition、海岸通ギャラリー・CASO、大阪

主なグループ展
2011 My Favorites!、KEN HAMAZAKI RED MUSEUM、大阪
2011 トーキョーワンダーウォール公募2011入選作品展、東京都現代美術館、東京
2011 elasticity、MATSUO MEGUMI +VOICE GALLERY pfs/w、京都
2010 有毒女子toxic girls、MATSUO MEGUMI +VOICE GALLERY pfs/w、京都

主な受賞
2011 2010年度京都市立芸術大学作品展、奨励賞、京都市立美術館、京都

人は、大切なものが失われようとする時、留めたいと願い、執心します。 例えば、思い出の品、遺品、記念碑など。 それらは、ある種イコンの様なもので、「あの日、あの時、あの人」を今に召喚するための装置です。 この装置を通して、失われたもの達が、その人の記憶の中から、時制を越え「今」にやってくるのです。 私は、自らのイメージを、「失われたもの」のように扱いました。 擬似的にしろ、「ある種のイコン」のような作品を制作したいと考えています。

■ 関連イベント:
オープニングイベント  日時:7月7日(土)
15:30~17:00 アーティスト・トーク
ゲスト 杉浦幸子氏(武蔵野美術大学准教授)
17:00~19:00 交流会


全文提供:トーキョーワンダーサイト本郷
会期:2012年7月7日(土)~2012年7月29日(日)
時間:11:00 - 19:00
休日:7/9・17・23
会場:トーキョーワンダーサイト本郷
最終更新 2012年 7月 07日
 

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